第17回 帰郷
※この小説はフィクションです。
暮れもさし迫り、唐突ではあるが、帰郷することにした。
毎年、毎年、帰って来いとは良く言われるが、去年は無職の身で帰る訳にはいかなかった。私の実家は関西であり、新幹線を使うと往復3万円ほど旅費がかかってしまう。月収20万円の身としては、今年も帰れないかな・・・とは思っていた。
また、その有馬記念では3,000円ほどをスッてしまった。給料少ないのにギャンブルなんてもってのほかである。ところが、年末に仕事納めの後、毎月月初めが給料の支払日だったのに、先生夫婦が気を利かせてくれたのか、通帳に12月のお給料が振り込まれていて懐の温かかった私は、ふらふらと、某地方競馬場の場外馬券売り場へと赴いていた。
そう、競馬好きの年末〆の最後の最後のレース、地方競馬の有馬記念、東京大賞典が行われるのだ。
地方の重賞レースとはいえ、JRA所属の馬も出てくる。というか、地方の重賞で人気になって結局勝ち負けになるのは、決まってJRA所属の馬だ。地方にとっても、JRA所属の馬を出さないと人も金も集まらないという事情がある。この年人気を分け合ったのは、2番人気サクセスブロッケンと1人気ヴァーミリアン
ああ・・・懐かしいね・・・ このブログが純粋に競馬のブログだった頃、両方よくこのブログをにぎわした馬だ。特に私はヴァーミリアンという馬が大好きだ。今でもG1レースで勝ち負けを演じるこの馬は、なんと“英雄”ディープインパクトと同じ世代なのだ。
ヴァーミリアンは、地方交流含め、ダートでG1戦を9勝挙げ、これは歴代最多G1勝利だ。思えば、芝の最強馬ディープインパクトの強烈な光の影で、ダートの最強馬ヴァーミリアンが日陰の人生ならぬ、馬生を歩む・・・まあ、地方ファンはダートを陰だなんて思っちゃいないんですけどね・・・
とにかく、この2頭で勝ち負けと思った私は、この2頭軸のフォーメーションから3連単を流すことにし、3着の相手も当然JRA所属馬からと、7人気の馬を拾って、3連単の万馬券を500円ほど獲ることに成功し、思いがけず5万円ほどの悪銭を得、ほとんど帰る気も無かったのだが、これは天からの授かり物と思い、帰省するることにした。
とはいえ、旅費で3万円強使って新幹線で帰るのもバカらしいと思った私は、青春18切符を買って鈍行列車で帰ることにした・・・ 1万数千円で済む。約半額の節約だ。
これが地獄の始まりだった・・・
とはいえ、私はこういう、のんびり、ゆっくりした旅が大好きなのだ。東京-大阪の距離というのを再認識する度でもある。かの坂本龍馬は10日間で往復したとかなんとか・・・東海道線を使った鈍行列車の旅を一度も経験したことが無いという人は、是非やってみて欲しい。100人が100人中、こう思うだろう・・・ そう・・・
し、静岡、なげーーーーーーーーーーよおーーーーーっっっっっ と
そう、この旅程の半分ほどが静岡なのだ。熱海から浜松まで・・・そこが延々と長い。2~3回乗り換える必要がある。6~7時間かかる。アホじゃねえか、静岡・・・ 行きはまあ、席に座れたから良かったが、帰りは立ちっぱなしだった。この区間だけでも新幹線を使えれば、どんなに幸せな旅だったろうか・・・
寒い、小雪の舞い散るホームで寒い寒いと言いつつ・・・次の列車を待った思い出・・・
名古屋から滋賀-京都-大阪っていうのは、県も変わるし、割とあっという間なんだけど、とにかく、静岡が長かった・・・というのが、この旅の思い出である。つうか、暇ならあなたも一度体験してみて欲しい。いや、日本中の青少年は一度体験してみるべきだ。静岡がいかに長いクニなのかを・・・
とはいえ、熱海だとか、豊橋だとか、米原だとか、ぶらり途中下車して飯屋やゲーセン寄ったりしてる自分も悪いんだが・・・どこの自転車少年だよ・・・と、昭和50年代以降生まれの人間には全く分からないギャグを挟みつつ・・・(これは以前書いたネタだった)
まあ、ちょっと冒険心に溢れた学生とかなら、やってみてもいいかもね。青春18切符の旅は・・・ アバンチュールな出会いとか、あるかもよ・・・ 私個人に関しては、隣の体育会系の青年が熟睡して頭こっちに向けてくるのが鬱陶しかっただけの旅だが。あと普通の横並びの通勤っぽい電車なのに、便所がついてたりして感激。
そうして、ようやく10時間の旅を終え、実家に辿り着いた頃にはすっかり夜も更けて年の瀬だった。家族に感激され、お鍋を食べて、紅白を見て、どこの家庭でも繰り広げられているような年末を過ごした。
そして、保育園児の甥っ子(妹の息子)に、お年玉として、1万円を握らせつつ・・・
「いいのに、いいのに・・・」と何度も固辞する妹に、
「いいから。いいから・・・」と何度も固辞を固辞する私。
翌日、まったりチゲ鍋を食しつつ過ごしていると、親戚の父方の兄の息子が遊びにやってきた。小さい頃よく、仮面ライダーごっこで遊んでやった彼も、すでにもう、ジャニーズに誘われたというような逸話を持つ面影はなく、すっかりいい好青年だった。彼はなんか、青年実業家で、いま社長らしい。年賀状を書くため、家の近所の会社へ正月早々出社したところを私の親父に捕まったという訳だ。
なんだこのグリコのサザエさんCMみたいな展開は・・・w
「いやぁ、久しぶりッスねー 兄さんちょっと肥えました?」
ハハハ。10年以上会っててない計算だ。社労士の試験に受かったことを教えてやると、
「凄いッスねー 引く手あまたじゃないッスかー 昔っから頭良かったッスもんねー」
「いやー そうでもないよ・・・ 今事務所で先生の元、修行中さ!」
ひとしきり、昔話に花が咲く。
「また、いつか、会いましょう!」
と、彼はさっと手を差し出してきた。私は、その手を両手で掴み、別れを惜しむ・・・
「おじさん、おばさんによろしく。」
なんか逆じゃね? 軽く敗北感で一杯だ。
正月は、妹のマンションに泊めて貰い、甥っ子に一晩中、動物の絵を描くことをせがまれた。まあ、まだ人見知りもしない、分別もない可愛い盛り。誰彼なし、懐いてくる。子供はいいね。純粋で・・・ 小金ができたら、またオモチャでも贈ってやろう・・・
そして、正月二日目、早朝、私は故郷を後にし、静岡の長さを体感する旅へと揺られることとなった。今回のちい散歩は、岡崎、豊橋、静岡、熱海。列車に飽きて下車し、ぶらーっとその辺、見て回った。名古屋名物は予算の都合上、天むす・・・のお弁当・・・ それくらいしか楽しみのない旅だ。アパートにたどり着いたのは真夜中だった・・・
ああ来年はひかりで・・・ せめて、こだまで帰りたい・・・
この長く曲がりくねったワインディングロードの旅も終わりに近づく・・・
年が明けて、うちの事務所、
最大最凶の事件
が勃発する。
この長く曲がりくねったワインディングロードもいよいよ終わりに近づく・・・
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