最終話 私はがんばった・・・その思いがあればいい。
※この小説はフィクションです。
来期の契約を更新しない旨を告げられた・・・
要するに解雇ということだが、1年契約で雇われて、更新しないということだから、厳密に解雇ではない。さすが先生は社労士だけあって、その点は実に巧妙だ。そういえば、最初にそういう契約書を作られた。
ただ、『契約を更新しない』にあたって、君のあそこがダメだ。ここがいけない。と、その理由をブチブチ、ブチブチ、聞かせ続けられた。
もういいじゃん。そんなの・・・ 静かに去らせてくれよ・・・
曰く、
「私たちは、もう歳も歳だし、先も長くないから、社労士界への貢献のつもりで、恩返しのつもりで、新しく世の中に出ていく社労士を育てたかった。しかし、君はそういう気を全然見せなかった。ヤル気を見せなかった。社労士への登録もしなかった。本当にヤル気があるなら、仕事が終わった後にコンビニでも居酒屋でもバイトして、お金を貯めて、みんなそうやって社労士になっていくのよ・・・」
自分達がそうやって社労士になった訳でもないのに、勝手な理想論を熱く語りまくる・・・ この平成大不況下において、30代後半という私の年齢でそんな簡単にダブルワークやっていけるの訳がないだろ・・・
そう思う反面、確かに、そういう努力もするべきだった・・・と思ってしまう自分がいる。世間にはそうやって社労士になった人、あるいは、妻子を立派に養ってる人もいるだろう。私は結局努力しなかったのか・・・ がんばらなかったのか・・・
月収20万+交通費・・・ 年収250万で、正味、ダイの男の大人が大都会東京で、生きて行くには、生活して行くには、正直、ギリギリ、カツカツだった。しかし、それですら恵まれているのが、社労士補助職という仕事だ。
私は、結局、借金は無いものの、支払えなくなってしまった去年からの税金+国民健康保険税が20万円ほどが残ったまま、今月いっぱいでクビを切られようとしている。
結局、私は努力しなかったのか・・・ 節約しなかったのか・・・ がんばらなかったのか・・・ いや、努力した。私はがんばった・・・ そう自問自答しながら、解決しない深い思考に落ちて、アルコールに漬かる毎日を送った。
回顧を告げられた3月初旬から終わりの31日まで、あと4週間・・・ あと3週間・・・ 1年契約・・・だが、厳密には、去年の4月2週目からの契約なので、1年経過していない。なので、雇用保険の失業手当は受けられない・・・ 4月からは、すぐ、生活の危機に直面する。クレジットカードで借りられるだけ、借りても、生活が保てるのは、2~3か月そこそだろう。早速、新しい仕事を探さなければならない・・・ そんなにすぐに見つかるのか・・・ この平成大不況下にあって・・・。
この物語の冒頭に繋がる訳だが、アルコールの力を借りなければ、飲まなければ眠れず、起きて意識を絶てない・・・ そんなボロボロな精神状態が2週間ほど続く・・・
立ち直るきっかけ・・・ でもないが、そんな私の精神を癒してくれたのが、当時、ちょうどレンタルが開始されていた米ドラマの『フリンジ』だった。
フリンジ・・・とはフリンジ・サイエンスのことで、日本語に直すとエセ科学、非疑似科学のことらしい。要するにX-ファイルとエイリアスとダメージとナンバーズを足して割ったようなドラマだ。金だけは映画が丸々1本撮れるだけ掛けただけあって、CGやVFXは素晴らしい・・・
ただ、目新しさや斬新さが皆無なので、本国でも日本でも全くヒットしなかい。
だけど、私にとっては、とにかく、癒された。癒されまくった・・・。
私は米ドラマだ大好きで、米ドラマには癒されるのだ。ちょうど、奥様が韓流ドラマに癒されるのと同じだ。一瞬浮き世を忘れさせ、その世界にトリップさせてくれる。もしくは、青春時代、あの輝かしい時代、よく見ていたX-ファイルを思い出させてくれているから、癒されるのかもしれない。
癒され、反面、堪えながら、また、履歴書を作成しはじめた。
私はがんばった・・・
その思いだけが、私を支えた・・・ 実際には、がんばってなかったのかもしれない・・・ 周りからみたら、がんばってなかったのかもしれない・・・
「ぼく、がんばったよ・・・」
事務所の帰りがけ、線路沿い、陸橋の下で、シックスセンスに出てた子役の子の吹き替えの声優みたいな声色で、そうつぶやいた。
プッ・・・ クス・・・
あまりにも似てたので笑けてきた・・・w
3月も半ば、某所から面接の連絡が入った。応募して即だ。さすが社労士補助職1年も続けたかいがあったぜ。
巨大なビルの1角にそこはあった。
簡単なテスト・・・WordとExcelの使い方のテスト・・・訳ない。ある意味、この建物で一番Excelを使いこなせてるくらいの自信はあった。なんてったって、マクロ使えるからね・・・私は・・・
そして、多人数対私一人の圧迫面接・・・ なんで、こんなところ受けてるんだか・・・
いろいろ質問されて、私は答えた
「齢70を超えたアクの強い事業主とも、正当に渡り合って、説明し、説得し、話を理解してもらってきました・・・うんぬん、かんぬん・・・」
これは本当だ。在職老齢年金の仕組みを説明して、あなたがいくら給料を取ってるから、いくら年金をカットされているか、給料をいくらいにしたら、年金をいくらもらえるのか、事細かく説明してやった。所長に詳しく説明し過ぎと怒られたやつだ。
また、別の日、超巨大ホームセンターの労務管理の仕事の面接も受けた。これは面接官がアクの強い人で、話が面白く、1時間半ほど、最近の景気は・・・からこの業界の未来は・・・労務管理は・・・とか話を聞かせていただいた。
社労士という資格のおかげなのか、履歴書を贈って、即、面接していただけるということは、本当に有難い・・・
そうして、こうして、3月も終わりに近づいた・・・
それでも私は日々の業務を淡々とこなしていった。
来月から、晴れて
無職が一匹・・・
そう思った矢先、携帯に採用の通知が入った。
一番最初に面接を受けたところだ。私みたいなハンパ者に対して、給料、待遇も結構いい・・・
あれま!
そして、素晴らしき我が先生とも、お別れの時がやってきた。
私は、これから就職活動するから・・・ ハローワークに通うから・・・ と、嘘こいて、3月最後の2日間を、最初で最後の有休休暇使わせてもらうことにした。
2日間、有難く、午後ローの実況に費やせてもらった。グースが少女の先導で、故郷に帰る話だった。来月から、また、新しい職場で新しい人生が始まる。
次に、どういう世界が待ち受けているのか、どういう困苦が待ち受けているのか、それは分からない。この約20回続いたお話は、ここで終わりとなります。ここまで読んでくれて、有り難うございました。
この物語の青年と、ここまで読んでいただいたあなた様の将来に幸多からんことを祈りつつ・・・
<おわり>
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